『 -MYTH-The Xenogears Orchestral Album』

恥ずかしながら、ゼノギアスに関する商品を買ったのはこれが初めてだ。
設定資料集やオリジナルのサントラを欲しい欲しいと言い続け、
悪戯に時間ばかりが経過し結局手にした事は無かった。
そんな時、ゼノギアス発売から13年以上が経過した2011年。
Xenogearsの珠玉の曲達がフルオーケストラとなって再び生まれる事となった。

アルバムを手にした時、直ぐに聴く気にはなれなかった。
変な期待感を抑えるのに一日要した。
既にアルバムジャケットが綺麗で美しい。万華鏡なのだろうか。
バックには作曲した光田康典氏がその存在をアピールしている。
それだけ彼がこのアルバムをただのゲームのサントラのリアレンジとしてでは無く、
一つの音楽作品として心血を注ぎ、自信を持って作製したのだろうと思えた。

ディスクをセットして一曲一曲、順番に拝聴した。
最初は音に耳を欹てて印象を受け取る。
その後光田氏のLiner Notesにある解説を読んで2回目を聴き、曲の解釈をしようとした。
音楽知識も無ければ感性も鈍い己に、
解釈なんて到底出来そうも無かったがどうにかして近寄りたかった。

結論から言えば素晴らしい作品だった。

一点だけ苦言を呈すれば、
キーパーソンであるグラーフ登場時に良く流れていた『紅蓮の騎士』が収録されていたら、
素晴らしい最高の作品になっていただろうに、と残念で仕方が無い。
あれこそオーケストラでやって生収録して欲しい。
『-MYTH2-』に是非期待をしたい。

ゼノギアスの作曲を担当した当時、光田氏はまだ24~6歳であったと言うから驚きだ。
あの名曲達をその若さで作り出せると言うのだから、
本人にとっては苦しんで生み出したものだとしても、才能と言うものをやはり感じる。
彼は化け物だ。

では、何故今だったのか。
それは作曲者である光田康典氏がLiner Notes上で語っているから割愛したいと思うが、
こちらからしてみれば感謝する以外に他無い。全力で有難う!!と叫びたい。

断言する。
『Xenogears』は彼無しでは決して存在しない。
そして期待する。
年齢を重ねた今後の彼の音楽に。

110601


 01.冥き黎明 -Orchestral Version-
OPムービーのBGMである。
この曲はゲームを起動する度に幾度となく聴いて来た曲であり、
ある意味では非常に耳が肥えている曲であると思う。
最初の一音を聴いた瞬間、目頭が熱くなった。
オーケストラならではの重厚な音、そして生々しいまでに生きた音を聴かされ鳥肌が立った。
Liner Notesにて楽曲の構成や雰囲気はゲームとほぼ同じであると言っている様に、
脳内では完璧にOPムービーが再生された。素晴らしい再現っぷりだ。
『You shall be as gods』のメッセージ出現からの盛り上がりは
真に迫るものを感じて身震いした。
今更ながら楽曲を彩る女性の神秘的な声がブルガリアンヴォイスと言うのを知った。美しい。
ゼノギアスにこのブルガリアンヴォイスの神秘的な声は必要不可欠だからな。
思い出補正もある中で、予想以上に、当時のもの以上の作品を彼は作り上げた。
それをこの一曲目から確信した。気付いたときには泣いていた。我ながらちょっと気持ち悪い。
Page Top
 02.おらが村は世界一 -Orchestral Version-
楽しい楽しいラハン村での音楽。絶望へと突っ走る前の幸せな日々。
走馬燈の様にHPちゅーちゅーが脳裏に浮かんだ。
フルート(?)やピアノによって奏でられる旋律があの楽しい時間を良く表現していて、
ゲームを開始した直後のワクワク感、村を歩き回るフワフワ感、坂を下るようなコロコロ感を
感じられる素晴らしいアレンジになっていた。
聴いている間は草原に居る様な、そんな気分になった。楽しい音楽。
Page Top
 03.飛翔 -Orchestral Version-
ゼノギアスの人気曲である飛翔がさっそく登場。大トリでも良いぐらいなんだぞ。
だがそこを光田氏も汲んでくれて、当時の原曲を忠実に再現してくれたらしい。
この曲を聴くと父と対峙する為にゼブツェンを駆るマリアの姿が浮かぶ。
「ゼプツェン、行きます!!」は最高のシーンだ。
オーケストラならではの幾つもの音が、壮大であり、
まさしく空を翔る爽快感を感じさせてくれる。
鉄琴(?)が良い仕事をしているぜ!
スロウダウンするパートもそれ以降の盛り上がりを助長させ、
より一層深みのある楽曲になったと思う。
締めはオーケストラならではだ。
実は個人的には前奏であるスネアドラムの部分が最高潮だったりする。
もう少しアップテンポでも良かったと最初は思ったが、聴けば聴くほど心地良くなった。
不思議な曲だ。
敢えてもう一度言わせてもらう。生の音には適わない。
Page Top
 04.盗めない宝石 -Orchestral Version-
この曲はゲーム中で随所に流れ、特にエリィ関連ではその本領を発揮していた。
彼女の強がるくせに淋しがりな所や、罪に苦しむ姿、寄る辺として無条件で人々を慈しむ姿が、
優しい笑顔と共に思い出される。
つまりこの曲は、
このゲーム内で表現されるありとあらゆる感情全てが詰まった曲なんだと認識させられる。
非常にピアノが美しい楽曲である。
光田氏本人が心地良いと言う中盤からのポイントは大賛成したい。
余談だが、光田氏が手掛けた『クロノ・クロス』にも同名のタイトルがある。
あちらも大好きだ。
Page Top
 05.死の舞踏 -Orchestral Version-
このゲームにおいて最も耳にする音楽がこの通常戦闘の音楽。
聴けばついでにコマンドを叩き込む音も再現されちゃうのが難点だ。
単調に思えて音が入り組んでいるので、生音で聴けるだけでも感動を覚える。
それにしてもなかなかの再現率で嬉しい。
程良い緊張感を感じられつつも、戦いの疾走感が止まらない。
最後の勝利に向かう盛り上がりがたまらない。
悔しいのはその後のリザルト画面のSEまで思い出しちゃう点だが。
ちくしょぅ、熱いな!!
Page Top
 06.風が呼ぶ、蒼穹のシェバト -Orchestral Version-
天空に聳える都市シェバトのメインBGM。物語は真相へ向かってひた走っている所だ。
一音一音があちらこちらに飛び散っている様な印象を受け、不思議な感覚に陥る。
今思えばこうも淋しげな旋律なのはシェバトの哀しい歴史を表現していたのだろうか。
人々の諦めた様な姿が思い出される。
イングリッシュホルンの実物が見てみたい。この世は素晴らしい楽器がいっぱいだな。
Page Top
 07.神無月の人魚 -Piano Version-
泣いちゃうよ。泣いちゃう。
深海に居る様な絶望感を感じさせられる。
ゲームでも物悲しいシーンなどで使われている。エメラダのテーマでもある。
転調してからもその絶望はより一層深くなる一方で、どうしたら抜け出せるのか分からない。
深すぎて息も出来ない。空気の泡がゆらゆら揺れるだけ。
神なんて居ないのに、必死に水の上に上がりたいと願う人魚の様に。
それをピアノ一本で表現する演者の表現力の高さを尊敬する。
オルゴールっぽいオリジナルも大好きだが、シンプルだからこそ来るものがあった。
そして生の音故のノイズが、最高に幸福感をもたらしてくれる一曲。
Page Top
 08.海と炎の絆 -Orchestral Version-
冒頭のモノローグやユグドラシルなどで使われている馴染み深い曲である。
つまり、若、だ。
最初のフレーズから早くも広大な大地が眼前に広がる様が容易に思い浮かべられる。
若の様な奔放さも感じられる。メロディが自由なのだ。
オリジナルとは異なるアプローチをしていて、
オケ用にリアレンジされた構成が見事に上手くフィットしている印象を受けた。
実際はどうなんだろう。
旅立ちの前、戦いの後、穏やかな日々、慌しい日常といった、
ゲーム内での幾つものシーンが体験出来る嬉しい一曲である事に変わりはない。
ちらちらとチュチュの姿が見えたのは、きっと気のせいだよな。
Page Top
 09.やさしい風がうたう -Orchestral Version-
最初はこんな曲あったか?と思ったら。
そうか、やすらぎの都 ニサンか。
燦燦と日の光が入って来る美しい大聖堂で、片翼の男女の大天使像を観た衝撃を思い出した。
ニサンで観たソフィアの肖像画も忘れられない。
ニサンではいくつもの愛の形を見せられた。
正にこの曲にあるのは愛なのだと感じられる程、優しくてそれでいて力強い。
それを表現するのが程良い低音で奏でるチェロ。ピアノはオリジナル風味で懐かしい。
あー、心が浄化される。
光田氏が思わず涙が出ちゃいそうになるのも頷ける。
Page Top
 10.悔恨と安らぎの檻にて -Orchestral Version-
出ました、ブルガリアンヴォイス。
日本語でも英語でも無く、聞きなれない言語が一気にゼノギアスの世界へと誘ってくれる。
この曲は過去の回想で良く使われていた。500年前、いや全ての始まりを思い出させる。
「生きて! ラカン!」 には泣いたなぁ。
ブルガリアンヴォイスのおかげで、神秘的で且つ何処と無く精神の危うさを感じた。
思えばタイトルも凄い。嘆く女の叫びか。
しかし最初はこの曲がゲーム内で使われた同じ曲とは思えなかった。
やはりハミングでは無くて言葉が入っているだけで一気に変わるものなんだな。
オリジナルのパイプオルガン(?)も好きだったな。
音楽にして、宗教画をつい連想してしまう様な荘厳さがある。
もうこれでシングルカットしてデビューしちゃえよ、と思うぐらいだ。
需要があるかは分からないけれど。
ここまで聴いて来て、未だにブルガリアンヴォイスの定義が分からない。
Page Top
 11.lost... きしんだかけら -Orchestral Version-
非常に短いが、ゼノギアスを象徴する大事な一曲である。
主人公であるフェイやエリィの姿が浮かんで、そして消えていく。
オーケストラとは言え派手なアレンジはしておらず、実にシンプル。
ゲーム内で慣れ親しんだままだとも思える。
だがやはり、しつこいようだが生の音は素晴らしいの一言に尽きる。
Page Top
 12.最先と最後 -Orchestral Version-
最初から迫真の歌声。響き渡る高音に身震いする。その完成度は感動物だ。
ゲーム内においてもこの神秘的な声とメロディは、プレイヤーを真実へと導いた。
ヴォイスと弦楽器がリンクする様は芸術的である。
オリジナルの男性ヴォイスも良かったけれど。
一つの壮大な物語が終わるにあたり、
それに相応しい壮大なこの曲が見事にまとめにかかっている。
この叫びは、波動存在が原点へと還る軌道、
そしてフェイとエリィが愛する人々の待つ地球へと戻る為の道標。
それこそ、最先と最後。
ブルガリアンヴォイス最強だな。
Page Top
 13.SMALL TWO OF PIECES -Orchestral Version-
スタッフロールが流れる。
エンディングを迎え、考えられないほどの充足感と少しばかりの淋しさが蘇る。
今思い出しても、この曲の歌詞を思い出しても、泣かずに聴けずにはいられない。
唯でさえ完成度の高かった楽曲がオーケストラで蘇る。もうそこまでしたら卑怯なぐらいだ。
驚くべき事に歌声とロー・ホイッスルは当時のデータを使用しているらしい。
それなのにこのシンクロ率は何なんだ!!
本気で再レコーディングしたのだと思っていたぐらいだ。
言われるがままに聴き比べてみたよ。マジだった。
実はどうしてもこの曲を歌えるようになりたくて、当時物凄く練習した。
最もこんなキーが高い曲を歌える訳が無かったが。
それだけ好きだったから、インストで無くちゃんと歌入れしてくれた光田氏に感謝したい。
Page Top
 14.遠い約束 -Piano Version-
トリを飾るのはこの曲。
シタン先生の家にある物置で見つかったオルゴールから流れるメロディ。
この曲を初めて聴いた時の感動は決して忘れないと思う。
プレイログでも記載したが綺麗なのにどこか儚く、淋しい印象を受けた。
光田氏の作る曲は必ず何処か、
飢えている様な、渇望している様な、心に穴が開いている様な、
そんなイメージが頭に引っ掛かってくる。何でだろうな。
どちらにせよゲームにとってもプレイヤーにとっても大事な大事な一曲だ。
なるほど、確かにこの曲でアルバムを閉じる事は相応しい気がする。
オルゴールの音をピアノにしただけ。それだけなのに、伝わってくる印象は随分と変わる。
だが楽曲の根底にあるものは同じなのだと、改めて思い知らされた。
人の愛もまた同じ様に。
Page Top

曲を聴き終え、Liner Notesを読み終えた。
最後に光田氏とオケの方々との集合写真を見て、泣かされたのは言うまでも無い。

ありがとう。

再びあの世界へ飛び込んでみるのも悪くない。
『神話』は幾度にも何人にも語り継がれるものだから。

110602